Saturday, June 28, 2014

日本語の自動詞、他動詞-14、向く- 再帰動詞


<日本語の自動詞、他動詞-2>で次のように書いた。


西を向く。英語で to turn to west か?

実際の動作を正確に表現すると。

 西を向く --> 自分の体を西に向ける
 to turn to west   --> to turn oneself to west

で、日本語も英語も他動詞 --> 自動詞の変換がある。 これは文法上の大きな問題で別途検討。



検討してみる。

英語にはあまりないが、フランス語やドイツ語には再帰動詞表現と言うのがある。フランス語やドイツ語と違って日本語では<自分>が出てこない場合が多い、つまり明示されないので、見つけにくいが日本語で再帰動詞表現を探してみる。

くるまる  
布団(ふとん)にくるまる、 <くるまる>は自動詞
わが身をくるめる、 <くるめる>は他動詞

わが身をくるめる -> くるまる

その他の例

わが身をたてる -> 立つ
わが身をねかせる ->ねる(横になる)
わが身をかくす -> かくれる
わが身を伏せる -> 伏せる
わが目をさます  -> 目がさめる、目ざめる
太郎は窓から自身の頭(顔)を出す。  -> 太郎は窓から頭(顔)を出す。
(追加予定)


<ふせる>は他動詞だが、上の例の場合の右側の<伏せる>は自動詞になるのか?
<目がさめる>主語+自動詞

以上<わが>は一人称の<わたしの>ではなく<自身の>の意味だ。

<向く>も同じように考え

わが身を向かす -> 向く

これは大げさに言えば<他動詞-->自動詞位相変換>になる。 ここで<位相>はモノの見方(つれて表わし方にもなる)といった軽い意味だが、文法的にはおもしろい検討課題だ。


再帰動詞表現は自分の動作が自分に向かわないといけない。

わが身を傷つける -> 傷つく
わが身をほろ(滅)ぼす -> ほろびる

<傷つく>、<ほろびる>の場合は他人が<わが身>を傷つける、滅ぼす場合が多いので、純再帰動詞とは少し違う。


太郎は窓から自身の頭(顔)を出す。  -> 太郎は窓から頭(顔)を出す。

これは主語が三人称になっている。だが基本的には同じで、自分の動作が自分に向かっている。問題は<頭(顔)を出す>の出すが他動詞か自動詞かだ。<頭(顔)を出す>で<出る>は<を>を取るので他動詞のようだ。しかし

1)太郎は窓から頭(顔)を出す。



2)花子は窓から太郎の頭(顔)を出す。

を比較してみよう。2)は現実にはあまりおこりそうもないが可能で、これは明らかに他動詞。それに比べると1)は他動詞性がやや低いといえる。ただし頭(顔)が自然に出て来るわけではないので、やはり他動詞のようだ。<意見を出す>、<辞表を出す>の<出す>とは他動詞性が違う。では次の例はどうか?

木が芽(枝)を出す。

木の気持ち察(さっ)しがたいが、おそらく<芽(枝)を出す>意識はないだろう。そうするとこの<出す>は自動詞に近づく。これはおもしろい文法問題だ。再度もっと詳しく検討予定。いろいろおもしろそうな文法問題が残っている。


sptt



Thursday, June 19, 2014

ドイツ語の接頭辞(prefix) - 8 <unter->



ドイツ語接頭辞(prefix)のポストの第8弾<unter->。前回の<auf->とはほぼ逆の意の接頭辞だ。相良大独和辞典の<unter->の解説の概要は次の通り。


動詞の分離前綴りとして常にアクセントを持ち、通常本来の意味を(示す)、また動詞の不分離前綴りとしては常にアクセントを持たず、通常比喩的な意味を表わし<下に、下へ、従属、遮断、中止、転覆、扶助、保護>などの意を表わす。


日本語の複合動詞では<主に下方向への動(うごき)の動詞>を含むことが予想される。

落とす - 落ちる
おろす(下ろす、降ろす) - おりる
かがめる - かがむ
くだす(下す) - くだる
さげる(下げる) - さがる
沈(しず)める - 沈む
伏/臥(ふ)せる - <伏/臥(ふ)す>は古語。<身を伏/臥せる>のようにので形式上は一応他動詞。
掘(ほ)る - 掘れる    <掘(ほ)る>は必ずしも下方向ではない。トンネルを掘る。
もぐる (自動詞) - <もぐらす>は他動詞というよりは使役形。    

従属は<下へ>行く、<下に>ある
転覆は、上にあるモノを<下で>なにかをして倒す、こわす
扶助、保護は<下から>持つ


問題は遮断、中止だが、これは英語の<under->ではなく<inter->がつく動詞と相関関係がある。この大辞典の前置詞、副詞としての<unter>の項目には<inter->(zwischen = between)との関係の説明がある。すなわち、昔は<unter>に<under>に加えて<inter->(between)の意味もあったのだ。

<inter->がなぜ遮断、中止の意があるかと言うと、簡単に言えば、<inter->の後につく動詞によるが<進行中のモノ、コトの間に入って、進行を止めようとする>の意が生じるからだ。

to intercept - 間に入って取る
to interfere - 間に入って邪魔する。
to interrupt - 間を破壊する。中断させる。
to intervene - 間に来る。中には入って(来て)邪魔する。

日本語では<間で xx する>は長すぎ、気がつきにくいが<さす(差す)>が使われる。

差し入(い)れる
差し障(さわ)る- 自動詞。他動詞はないようだ。<さしさわり(名詞、体言)がある>でよく使う。
差し出る - 自動詞。他動詞は<差し出す>だが、<間で xx する>の意はない。
差しつかえる - 自動詞。他動詞はないようだ。<さしつかえ(名詞、体言)がある>でよく使う。
差し止める
差しはさむ

さて、英語では under とともにラテン語系 sub- (sup-, sur) の接頭辞がつく動詞も多い。

subdivide  -  unterteilen         細分する
subject  -  unterziehen        ゆだねる、まかせる
submerge  -  untertauchen     沈める
support  -  unterstrützen        ささえる
suppress  -  unterdrücken     押ししずめる


<下(下方)へ置く>は日本語では<おろす>という表現がある。相良大独和辞典を読んでいておもしろいのは、 <xx の下に置く>にもいくつか違った意味(動き)があることだ。

<xx の下に置く>から一番先に思い浮かぶのは

テーブルの下に箱を置く。

といった例だろう。これをもう少し正確に言うと

テーブルの下の空間に箱を置く。

となる。それでは

手紙を枕の下に置く。

はどうか。これをもう少し正確に言うと

手紙を敷布団(ベッドの場合は敷布か)と枕の間に置く。手紙を敷布団と枕の間に差し込む(入れる)。

となる。<手紙を枕の下に置く>と手紙が見えなくなる。また水にもぐったり、モグラのように地下にもぐると、見えなくなる。地下にもぐるる場合(underground)はかくれてよからぬことをすることが多いようだ。under table もよからぬことで、これも under table の行為はたからは見えなくなる。 <unter->がつく動詞の中には、この意味の動詞がいくつかある。

また、突然の雨降りのとき、のき下に雨宿りするという意味の<unter->動詞がいくつかある。

beim Regen sich unterstellen
beim Regen sich treten (駆け込む感じか)
sich untertun

<beim Regen>は<雨なので>の意。


sptt

Wednesday, June 11, 2014

<とげを刺す>の<刺す>は他動詞、自動詞?


<トゲを刺(さ)す>の<刺す>は<を>とるので他動詞のように見える。それに<刺す>に対応する自動詞<刺さる>がある。<トゲを刺す>と<トゲが刺さる>はどこが違う。

子供が(遊んでいるうちにバラのトゲとか木片のトゲが指に刺さって)母親や先生に

指にトゲを刺した。(指にとげを刺してしまった。)

とも

指にトゲが刺さった。(指にとげが刺さってしまった。)

とも言いそうだ。

状況が変わって、禁じられている遊び、行為でトゲが指に刺さった場合も

指にとげを刺した。(指にトゲを刺してしまった。)

とも

指にトゲが刺さった。(指にとげが刺さってしまった。)

とも言いそうだが、いけないことをしてしまったという良心の呵責がある、または良心の呵責があることを示したい場合は、おそらく

指にトゲを刺した。(指にトゲを刺してしまった。)

だろう。

指にトゲが刺さった。(指にトゲが刺さってしまった。)

では、あくまで自然の成り行きでおこった事故で自分に責任がないことを表わす。 他動詞<刺す>を使うと自分が事故に関与することになる。だが、特別の目的がない限り、実際わざわざ自分で自分の指にトゲを刺すことはないだろう。偶然の事故はあくまで偶然の事故なのだ。

さて、それでは<トゲを刺(さ)す>の<刺す>は<を>とるので他動詞か?の問題を考えてみる。

<指にトゲを刺す>は、特別の場合をのぞき、自分で自分の指、あるいは他人の指に<トゲを刺す>わけではない。にもかかわらず、なぜ<指にトゲを刺す>と他動詞と見られる<刺す>を使うのか。いくつか特殊な事情がある。

動詞<刺す>について。<さす>についてはいくつか別のポストで検討した。(*)

sptt やまとことばじてん<さす-刺す、差す(挿す)、指す>の一部コピー



<差す>と<指す>と<刺す>と漢字を使うと意味が微妙に違うようだが、基本的な意味は同じ。

差す - <何かを少し前に進める(出す)> といった動作を指す。将棋(の駒)を差す(少し前に進める)。碁は<打つ>だ。上記の<差す>の例は大体この意味で説明がつく。

指す - 物理的には指(ゆび)を<少し前に進め(出し)て>その方向を示す動作だ。

刺す - 上記の指(ゆび)を<針、ナイフのような先がするどいモノ>とすれば<刺す>になる。

いずれにしえも漢字を使わない、または話したり聞いたりするときにはすべて<さす>だ。



<刺す>は<針、ナイフのような先がするどいモノ>で<さす>のだが、結果的に<傷(きず)つける>(他動詞)、<傷つく>(自動詞)ことになる。

<指す>、<刺さる>を<傷つける>、<傷く>で置き換えてみる。

指にトゲを刺した。 --> 指にトゲを傷(きず)つけた。

おかしい。

(私は)指にトゲを傷(きず)つけた。 -->  (私は)指とげ傷(きず)つけた。

指にトゲが刺さった。--> 指トゲ傷(きず)ついた。

<傷つける>、<傷つく>では他動詞、自動詞がはっきりしている。他動詞の場合の主語は人(たとえば私)だ。

<指とげ傷(きず)つけた>と<指とげ傷(きず)ついた>を今度は<刺す>、<刺さる>で置き換えてみる。

トゲ傷(きず)つけた。 -->  指トゲ刺した。 - 1)

トゲ傷(きず)ついた。 --> 指トゲ刺さった。 - 2)

2)は明らかにおかしいが、1)もどこか変だ。

1)は

トゲ刺した。 -->  指トゲ刺した。

とすれば何とか意味が通じるが、まずこうはいわない。

 <指トゲ刺した>と<指にトゲを刺した>はどこが違う。

トゲ刺した。



 トゲが(主語)+指を(直接目的語)+ 刺し(動詞)+ た(助動詞)。

英文法になるが、文法上は正しい。だが<トゲ>に<指を刺す>意思、意図があるとは思えない。

一方<指にトゲを刺した>は始めに書いたように、発話者の意思、意図が感じれる。

もう一つ別の考えをしてみる。英語、あるいはドイツ語には再帰動詞表現というのがある。再帰動詞表現は、特に日本語での表現と比較は大きな課題なので詳しくは別途検討。再帰動詞表現の一つに日本語から見れば他動詞を自動詞に変える働きがある。

i)行かせる(使役他動詞) - 自分を行かせる - 行く(自動詞)
ii)満足させる - 自分を満足させる - 満足する

ii)は英語では普通<to satisfy>の受身形を使って<be satisfied>というが<to satisfy oneself>も文法的には正しく、場合によっては使える。たとえば、あることに失敗して、<Well, next time I want to satisfy myself. (今度は満足(出来るような結果)にしたい。>とか。日本語なら<今度は満足(出来るような結果に)したい>か。 <満足する>は自動詞。英語あるいはドイツ語流に再帰動詞表現を試(ため)してみる。

私は自分をトゲで(をもって、によって)指に(で)刺した。

<指に(で)>は場所を示す。

とんでもない日本語だが、主語(わたし)があり、他動詞<刺す>が使える。だが、これでは私に<刺す>意思、意図があることになり、ダメだ。英語とドイツ語では様子が違うが、非人称表現というのがあり、ごく頻繁に使われる。(非人称表現はこれまた大きな、おもしろい調査課題だ。)

That makes me sad.   That は人ではなく在る特定のモノ、コトだ。
It rains.  これは特殊な非人称表現で It はなんだかわからないが、主語がないと動詞の変化が確定しないのでさしさわりのない It (3人称単数)が使われる。非人称表現を試してみる。

何かが自分をトゲで(をもって、によって)指に刺した。

かなり変だし、長すぎるので< 自分を>を除いてみる。

何かがトゲで(をもって、によって)指に刺した。

(をもって、によって)よけいなので、これを除く。

何かがトゲで指に刺した。

大分よくなったたが、ここで思い切って、<で>を<を>に換えてみる。

何かがトゲを指に刺した。

順序を入れ替えて

何かが指にトゲを刺した。

これで何とか意味は通じる。しかも自然現象の表現だ。問題はさきほどの<ここで思い切って<トゲで>を<トゲを>に換え>たことだ。これは意味上、または文法上許されるのか?

ここは発想の転換のようだ。

ところで、<刺す>はトゲの場合確かに<傷つける> と関連ががあるが、一般的な意味は前述のように、

刺す - <針、ナイフのような先がするどいモノ>を<少し前に進める(出す)>ことだ。

だが<傷つける>ためには<少し前に進める(出す)>だけではダメで何かを実際に<突く>か<貫(つらぬ)く>必要がある。つまり<突き刺す>とか<刺し抜く>(<抜き刺す>は別の意味)必要がある。

<トゲで>刺す
<トゲで> 突き刺す
<トゲで> 刺し抜く

を比べてみよう。この中で、<トゲで刺す>は<トゲで 突き刺す>、<トゲで刺し抜く>に比べるとやや変だ。<で>を<を>に換えてみる。

トゲを刺す
トゲを突き刺す
トゲを刺し抜く

今度は<トゲを突き刺す>、<トゲを刺し抜く>が<トゲを刺す>に比べてやや変だ。以上の作業はかごまかし、まやかしのようだが、結果を検討してみる。

<トゲを突き刺す>、<トゲを刺し抜く>が変なのは<突き刺す>、<刺し抜く>は対象がないといけない。<とげ>は対象になりにくい、あるいはなれない。なぜなら<突く>、<抜く>他動詞性が強く、<突く>、<抜く>は直接的(作用が及ぶ)対象が必要で、この場合<指>が対象だ。一方<刺す>は<針、ナイフのような先がするどいモノ>を<少し前に進める(出す)>だけなので、必ずしも直接的(作用が及ぶ)対象は必要としない。<指>は<少し前に進める(出す)>目標、方向と言える。したがって<指に>でおかしくない。

トゲを刺した。

まだ<トゲを>の<を>が残っている。ここで発想の転換。<トゲを>の<を>は直接目的語を示すのではなく手段、道具を示す<で>に相当する、と見るのだ。 つまり、

トゲ刺した。

主語が必要であれば

(何かが)指トゲ刺した。

<トゲを>の<を>は直接目的語を示すのではなく手段、道具を示す<で>に相当する、と見る必要があるのは、ほかにも例がある。


sptt Notes on Grammar <止める、泊める、留める>の一部抜粋



<車を止める、停める>は英語では to stop the car でいいと思うが、ドイツ語では mit dem Wagen anhalten という言い方が辞書にあり、直訳すれば<車で止まる>になり、かなり変テコな言い方だ。だが、少しよく考えてみると(これも変テコな言い方だ)、車は自分の手や体で直接動きを止めるわけではない。ブレーキをかけることによって<止める(他動詞)>または<止まる(自動詞>のだ。



これを応用すると、

<指にトゲを刺した>は<指にトゲで刺した>になる。かなり変テコな言い方だが、トゲは当事者が自分で<刺す>わけではない。何かが(運悪く)<刺す(他動詞)>または何かの事情で(運悪く)<刺さる(自動詞)>のだ。

なお、<とげ>をあえて<トゲ>とかいてきたが、<とげ>は漢字の<棘(トゲと読ませるようだ)>とはまったく関係なく、<とがる>、<研(と)ぐ>関連で<とがっている>+モノだ。<研(と)ぐ>とモノは<とがる>。

追加

<刺さる>は自動詞だが、他動詞<刺す>の受身形を考えてみる。他動詞<刺す>の受身形は<刺される>だ。英語流に言えば<指はトゲで刺された>(英語ではどういうのか?(**))になるが、日本人であればまずこうは言わない。<太郎は強盗にナイフで指された>はおかしくない。なぜ<指はトゲで刺された>がおかしいのか。<トゲで刺された>は<ナイフで指された>に近い。そうすると、<指はトゲで刺された>に<強盗に>に相当する語がないのだ。だが、<太郎はナイフで指された>もおかしくはない。<指はトゲで刺された>で<強盗に>に相当する語はほとんど意識されていないといえるが、あえて探せば<何か>或いは<誰か>或いは<何者か>で、存在はするが発話者自体よくわからないのだ。したがって<指は(何か、誰か、何者か)にトゲで刺された>となる。もっとも<<指はトゲで刺された>とは言わないので、そんなに詮索することはないのだが、話を進める。<指は(何かに、誰かに、何者かに)トゲで刺された>を<指にトゲ刺した>に関連づけてみると、<(何か、誰か、何者か)指にトゲ刺した>となる。こう考えると<指にトゲ刺した>はおかしくなくなる。


参考

(*)<さす>について

1)sptt やまとことばじてん<さす-刺す、差す(挿す)、指す>
2)sptt Notes on Grammar 前回のポスト<<さす>(刺す、指す、差す、挿す、射す)について>

 (**)<指はトゲで刺された>は英語ではどういうのか?

直訳の My finger was sticked by a spike. は間違いだろう。たとえば、もう少し具体的にして
One of the fingers of my left hand was pieced by a spike of the rose (shrub). とでもなるか?



sptt








Monday, June 9, 2014

<さす>(刺す、指す、差す、挿す、射す)について


<さす>はおもしろい動詞だ。ワープロの辞書の<さす>では刺す、指す、差す、挿す、射すがある。もちろん漢字を使えば五つの違った言葉のあるように見えるが、大和言葉では<さす、sa-su>の一語。<さす>の複合動詞を調べてみる。

xx(動詞の連用形)+ さす

押しさす   画鋲(ピン)を押しさす
突き刺す
接(継)(つ)ぎさす
<抜きさす>という動詞はなく<抜き差しならない>で使われるだけだ。したがって<抜くことも差すこともできない>という意味だろう。武士のカタナが戦闘場面でこういう状態だと、それこそ<抜き差しならない>状況だ。

<xx(動詞の連用形)+ さす >はありそうであまりない。

吸いさし (タバコ)
食(く)いさし
食(た)べさし
飲みさし
読みさし

があるが、動詞形はあまり使わない。おもしろいのはこれら(xx さし)に共通する意味だ。いずれも<途中でやめた、やめてある>の意味がある。この理由はこのポストを我慢して最後まで読めばわかります。

一方<さし(さすの連用形) + 動詞)>は豊富だ。これは辞書で簡単に見つかる。ここでは基本的におかしくなければ<ワープロの辞書>で出てくる漢字を使っておく。ただし多義語や強調それに少しおかしいのは<さし>を使っておく。

さし + 動詞

差し上げる (慣用あり)
射し当たる   日が射し当たる
(さしあたる)   さしあたり
差し入れる
さしうつむく(うつむくの強調、辞書から)
差し置く       慣用。 誰々を差し置いて
さし送る(送るの強調、辞書から)
差し押さえる
差し替える
差しかかる        坂道にさしかかる
差しかける   傘を差し掛ける
さしぐむ    涙さしぐみ
差し込む   日が差し込む(<射し込む>か)  
差し交わす
さしきる (多義語)
刺し殺す
差し障る(さしさわる)
差し迫(せま)る
(さしづめ)  <--- さしつめる
差し出す。
差し立てる (送り出す、差し向ける、使いを立てる)
刺し違える
差しつかえる
差し遣(つか)わす
刺し貫(つらぬ)く
差し出る    差し出がましい
刺し通す
差し止める
指しぬく
差し伸べる
さしはさむ
差し控(ひか)える
差し引く (慣用あり)
さし響(ひび)く (響くの強調)
差し招く
差し回す
差し向ける
差し戻す
さしやる(遣るの強調か)
差し渡す

以上は手もとの辞書(三省堂)とコンピュータワープロを参照したが<挿す>の字が出てこない。

<刺す>は先のとがった鋭いもので何かを貫く。正確には先のとがった鋭いものを<押して>何かを貫く。方向は上下(特に下)もあるが前方句が多いようだ。点(一次元)に注目した動きだ。

<指す>はある方向を指(ゆび)あるいは指のようなものである方向を示す。横や後ろや上下を<指す>場合もあるが、たいていは前(まえ)方向だ。いづれにしても<指す>人やものの<近くから遠く>への方向と距離感がある。

<差す>は上記の複合動詞ではダントツに多い。意味も慣用用法、比喩もあり多様そうだ。<刺す>と同じく点(0次元)に注目した動きの場合もあるが、線上(1次元)、面上(2次元)、さらには立体上(3次元)の場合もあるが、たいていはすき間に<さす>、<さしいれる>、<さしこむ>といった意味だ。

<挿す>は破壊、損傷目的でない<刺す>のようだ。

 <射す>は<雲間から日がさす>、<xxのすき間から明かりがさす>のように使うが<差す>でもいいようだ。方向は<射して行く>より<射して来る>が普通だ。

さて問題は<差す>、あるいは<さす>だ。分類してみる。

1)強調

さしうつむく(うつむくの強調) 
さし送る(送るの強調)
さし響(ひび)く (響くの強調)
さしやる(遣るの強調か)

<さし送る>が強調とすると<さし遣る>も強調になるが<さす(差す)>自体に<送る>、<遣る><方向への動きを示す>働きがあり、強調といえば強調、<ある方向への動きを示す>とも言える。
<さしうつむく> 、<さし響(ひび)く >の<さし>は方向性が薄いがゼロではない。

2)方向性動詞との組み合わせ

差し上げる
差し入れる
刺し貫(つらぬ)く
差し出す
差し遣(つか)わす) - <差し送る>、<差し遣る>と同じグループ。
刺し通す
差し伸べる (周囲、遠方へ)
差し引く
差し回す
差し向ける
差し戻す
差し渡す

1)強調の<さし送る>、<さし遣る>も方向性がある。

3)方向性が弱い運動、動作動詞との組み合わせ

さしうつむく(うつむくの強調)
差し押さえる
差し掛ける
差し迫(せま)る (押す感じ)
差し立てる (送り出す、差し向ける、使いを立てる) 基本的な意味は<送る>だ。
さしはさむ

おもしろいのは残った複合動詞だ。

4)残り

射し当たる   日が射し当たる
さしあたる    さしあたり
差し置く
差し替える
さしぐむ(*)    涙さしぐみ
差し込む   日が差し込む(<射し込む>か)  
差し交わす (交わすの強調のようでもあるが、<差す>は<前方へ、で>の方向を暗示しているようだ)
さしきる (多義語) 競馬で<差し切る>と言うのがあり、競馬ファンが競馬を見るときの大きな醍醐味(だいごみ)だ。この<差し>も<前方へ>の方向を暗示がある。
刺し殺す
差し障(さわ)る
(さしづめ)  <--- さしつめる(**)
刺し違える  <指し違える>とすれば将棋用語か。
差しつかえる
差し止める
指しぬく
差し控(ひか)える
差し招く  これは<指し招く>だろう。

以上のうちおもしろい共通性があるのは

差し障(さわ)る
差しつかえる
差し止める
差し控(ひか)える

だ。何がおもしろい共通性かといえば<差す>がある方向(とくに前方向)への動き、動作、作用を示す(暗示する)のに対して反対方向への動き、動作、作用を示す動詞との組み合わせであることだ。

<障(さわ)る>は<睡眠不足は体に障(さわ)る>のように使う。<正常なまたは良い状態に反する>動き、動作、作用を表わす。
<つかえる>は<前がつかえて先に進めない>の<つかえる>、<つまる>だ。
<止める>は説明はいらない。
<控(ひか)える>は<<xx しないようにする>>、<xx し過(す)ぎないようにする>。

もう一つ、これは日本語だけを見ていてはわからないが、英語の inter が頭にくる語との関連だ。 inter が頭にくる語には

to interact
to intercede
to intercept
to interchange
to interconnect
to interface
to interfere
to interlace
to interlude
to intermingle
to interplay
to interpolate
to interpose
to interpret
to interrelate
to interrogate
to interrupt
to intersect
to intertwine
to intervene
to interview
to interweave

がある。大体はあるモノ(A)とあるモノ(B)と間のなんらかの関係を示す語が多いが下記の語群はやや違う。

to intercept - 間で取る。  Ref.  to accept、concept、reception,
to interfere - 中には入って邪魔する。
to interlude - もともとは間のプレイ(挿入劇、曲)。
to interpolate  - 途中が切れているところを埋める(技術用語)。Ref. to exterpolate
to interpose - 間に置く。   Ref.  to expose、to propose、to suppose
to interrupt - 間を破壊する。  Ref.  rapture = 破壊
to intervene - 間に来る、中には入って邪魔する。Ref. to convene (会議に)集まる/める

以上は進行中の何かに入って xx をすることだ。のこのうち<差し>と関連がありそうなのは

to intercept、to interfere、to intervene - 差し止める

上で取り上げた

差し障(さわ)る
差しつかえる
差し止める
差し控(ひか)える

は<差し止める>を除くとたは自動詞だが、これを使役形(他動詞形になる)を作ってみる。

差し障(さわ)る - 差し障らせる
差しつかえる - 差しつかえさせる
差し控(ひか)える - 差し控えさせる

差し障らせる、差しつかえさせる、差し控えさせる、は - to intercept、to intervene、to interfere、 の意になる。

to interpose は<差し置く>ではない。

したがって<差す>には<間に入れる、入(はい)る>の意があることになる。


(*)<さしぐむ>

<さしぐむ>の<ぐむ>は辞書によると、<ぐむ>は

その(ある)組織内の内部から何かが少し出始める、こと

となっており、例として

角ぐむ、涙ぐむ、汗ぐむ

を挙げている。

(**) さしづめ  <--- さしつめる

<さしつめる>という動詞はないようだ。文字通りでは<さし(て)>+<つめる>で<前に詰める>、<前方向に詰める>、<前に進んで詰める>といった意味か?<さし>は単なる強調のようでもある。

<さしづめ>は辞書によると、

その(ある)ものの特質(根本性格)を端的に表わせば、そう言えると判断する様子。

となっている。


(参考)

 sptt やまとことばじてん<さす-刺す、差す(挿す)、指す>


 sptt

Wednesday, June 4, 2014

日本語の自動詞、他動詞-13 <休む>自動詞、他動詞 ?


<休む>は手もとの辞書(三省堂)では(自他)、すなわち<自動詞かつ他動詞>となっている。残念ながら、用例はあるが自他が分けられていない。<休む>の自他の区別はけっこう難しい文法上の課題のようだ。

私(花子)は今日会社(学校、仕事)を休む。

で<を>をとるので他動詞のようだ。この場合の<休む>の意味は、<通常行くべきところへ行かない>、または<通常すべきことをしない>。ただし<仕事を休む>は自営業以外は< 会社を休む>と同じような意味だ。<行く>、<行かない>は自動詞だ。英語では

I do not go to work (school) today.
Hanako does not go to work (school) today.

だろう。

他動詞そうなのは<休ませる>だ。

風邪気味なので花子学校休ませる。

だが<休ませる>は他動詞のようだが、他動詞と言うよりは使役形だ。

疲れたので体休ませる。

これは特殊で自分自身に対する使役形。何か変な感じで、結局のところ使役感は薄く<体休ませる>は<休む>と同じような意味になる。ところで、なぜ<何か変な感じ>なのかというと、普通は<休める>を使って

 疲れたので体休める。

と言うからだ。 <休める>は使役性が弱い他動詞で対応する自動詞は<休まる>。いわゆる<まる-める>の<自動詞-他動詞>対応だ。

<他動詞に使役をたすと自動詞化する?>という文法上の問いがあったが、以上はこの問いの回答の一つだ。

休まる - 休める
からまる - からめる
高まる - 高める (<高い>は形容詞)
弱まる - 弱める (<弱い>は形容詞)
(いくらでもある)

自動詞<休まる>は

しばらく横になると体休まる。

のように使う。

会社(学校、仕事)が休まる。

とは言わない。<休む>は<休ます>が、<休まる>は<休める>が対応し意味が違うようだ。

会社(学校、仕事)を休む。

に対して、会社(学校、仕事)が主語の

会社(学校、仕事)(は)休む。

は明らかにナンセンスで、自動詞ではないようだ。自動詞と他動詞の見分け方法の一つに受身形にするというのがある。

花子に会社を休まれて(は)困る。

これは意味はあるので<休む>は他動詞のようだが、この場合休む対象である会社は主語ではない。

会社は花子に休まれる。

はナンセンスだ。 したがって<休む>は自動詞か? ところで

会社は花子に休まれては困る。

の主語は何か? 誰が困るのか? 会社のようでもあり、会社に関係する誰か(人)のようでもある。

花子に花瓶を割られた。
花瓶は花子に割られた。(翻訳調)

も受身と言うよりは被害、迷惑の感じがある。
 
花子に花瓶を割られた。



花子が(は)花瓶を割った。

の被害、迷惑表現で、<花子が(は)花瓶を割った>でも<花瓶は花子に割られた>でも被害、迷惑感が出ない。もっとも<花子に花瓶を割られた>も<花子が(は)花瓶を割った>も<花瓶は花子に割られた>も事実は同じだ。

ところで<割る>は他動詞。自動詞は<割れる>だ。

花瓶が割れた。

落語(現実ばなれした話)みたいになるが、普通の状況では花瓶が自分で自然に、あるいは自分の意思で、割れるわけではない。だが

地震でガラスがたくさん割れた。

は現実ばなれした話ではない。

日本語の受身は往々にして被害、迷惑を表わし、自動詞も受身形になる、と言う大きな特徴がある。

太郎に突然来(こ)られて困った。

<来る>は自動詞。<長い道のり来る>という言い方があるが、これはいわゆる<を>をとる移動動詞(自動詞)、ということになっている。<を>をとる移動動詞については前々々回のポスト<日本語の自動詞、他動詞-12、移動動詞-2>でかなり長い中間報告をしておいた。

さて話は

会社(学校、仕事)を休む

に戻って、<休む>の反義語は<働(はたら)く>、<動く>だ。 <動く>は

ここ動くな

のように<を>をとることがあるが、自動詞。 <ここ動くな>は<ここから動くな>と言え、また<ここを(から)離れるな> と同じような意味だ。一方<働く>は<休む>と似たようなところがあり(自他)のようだ。<働く>は

私は(が)会社で働く。 (自動詞)
この箇所に力が働いている(力学)。 (自動詞)
悪事を働く。  (他動詞か?)

<休む>はいくつか違った意味があるが、基本的な意味は<働かない>、<働かなくなる>で否定表現になってしまう。これは<働く>を<休む>より基本的と見なしている。また<働かない>よりは<働かなくなる>が正確だ。なぜなら<休む>は<休む>前は<働いている>のが前提となっている表現だからだ。これは<止まる>、<止める>にも言えることで<止まる>、<止める>前は<動いている>ことが前提となっている表現だ。ここが<終わる>、<終える>と違うところだ。途中で<終わる>、<終える>のが<止まる>、<止める>だ。

動きが止まる。
機械が止まる。
時計が止まる。
車が止まる。

以上のうち<車が止まる>はやや複雑で、

自分が運手にしている車は<止まる>ではなく<止める>になる。だが、きわめて危険なことだが止めようともしないのに<止まる>ことがまれにある。いわゆる<エンコする>だ。 <エンコ>の語源は<エンジンが故障>するか?

関連する動詞としては漢語由来では<中止する>、<停止する>。大和言葉では

やめる (他動詞)
やむ (自動詞)  雨がやむ(止む)。 騒音がやむ。<やまる> は方言か。
よす (口語的、他動詞、自動詞?)

がある。

<やすむ>、<やめる>、<やむ>は音韻上も関係がありそう。

ya-mu
ya-me-ru
ya-(su)-mu
ya-(su)-ma-ru
ya-(su)-me-ru

さて再び<休む>の話にもどって、手もとの辞書から察せられるように<休む>は自他の区別が難しいが、<休む>の内容からしてなにか対象に働きかける感じは薄く、<休む>は自動詞性が高い。

会社(学校、仕事)を休む

を<を>をとる自動詞として解釈するには< 会社(学校、仕事)>を直接目的語的な対象とするのではなく場所と見るのだ(仕事はここでは仕事場と解釈する)。変な日本語になるが、

 会社(学校、仕事)休む

と解釈する。そして<休む>のは自分自身。<自分自身を休める>のだ。<自分自身を休める>と言うのも変な表現だが、<休める>決定をするのは自分自身でこの場合の<休める>は普通の他動詞、または上で述べた使役形と様相が違う。そこで<自分自身を休める>を自動詞とみなす。または再帰(自)動詞としてもいい。そして、下手な手品みたいになるが<自分自身を休める>を<休む>でおきかえることが出来るとする。これを言い換えれば

会社(学校、仕事)<自分自身を休める(=休む)

となる。だが、まだ変だ。下手な手品はまだ続いて<で>を<から>に換えてみると、

 会社(学校、仕事)から<自分自身を休める>。

になる。これは何とか意味が通じる。

会社(学校、仕事)を休む。

と比べると雲泥の差があるように見えるが、深層心理的には

会社(学校、仕事)を休む =  会社(学校、仕事)から離れて自分自身を休める

なのだ。

これで<休む>を自動詞とみなしておかしくなくなる。<離れて>の<離れる>は<xx から離れる>以外に

家を離れる
ここを離れる

のように日本語ではごく自然に<を>をとる自動詞だ。


(参考)

相良大独和辞典には次の例文がある。

mit etwas aufhören - あることをやめる(中止する、の意だろう) 

mit der Arbeit aufhören - 仕事をやめる(終わりにする、中断する、の意だろう) 

aufhören は自動詞。



sptt








Monday, June 2, 2014

ドイツ語の接頭辞(prefix) - 7 <auf->


ドイツ語接頭辞(prefix)のポストの第7弾<auf->。相良大独和辞典の<auf->の解説の概要は次の通り。(auf-分離動詞の見出し語数は約600でかなり多い)


分離動詞の前綴りとしてアクセントあり。”上方または事物の上面への運動、上面における存在、行為への刺激、復旧、終結、開始、開放、開放、更新などを意味する。



となっている。比較的簡単な説明だ。大和言葉を使って分けてみる。

1)上方の運動 - 上に(へ)、上の方に(へ)、の動きを示す。向きを示す。

2)事物の上面への運動 - モノ(コト)の上面に(へ)、の動きを示す。これも向きを示す。

3) 上面における存在 - モノ(コト)の上面にあることを示す。場所を示す。

4)行為への刺激、復旧、終結、開始、開放、更新など、の意を示す

4)については<など>を含め漢語の解説は出来るだけ大和言葉を使って別途説明。 終結と開始は相反する。もっとも、ドイツ語接頭辞(prefix)のポストの第1弾<er->は<発生、開始、変化、終了(その他もある)>を示すので驚くには当たらない。復旧と更新は似たようなところがある。

前回の<aus->で取り上げたが、日本語では<始まる>、<始める>の意で<出す>がある。

<出す>は<xx (動詞連用形)+出す>の組み合わせで<(突然)xx 始める>の意になり、ドイツ語(aus-)の<終了、完成(終わる、終わらす)>とは対照的だ。これは基本的に意味上問題がなければどんな動詞にも付く。

あばれ出す
歩き出す
怒り出す
泣き出す
笑い出す

つまり日本語では<出す>(ドイツ語では接頭語<aus->)が開始になる。一方日本語では<上げる>が<xx (動詞連用形)+上げる(上がる)>の組み合わせで終結(終える、終わる)になりそう。

すごろく遊びでは始めは<ふりだし(振り出し)>、終わりは<あがり(上がり)>だ。

書き上げる - 書き上がる
仕上げる - 仕上がる
作り上げる  - <作り上がる>とは言わず、出来上がる>が普通。<つくる>は他動詞だが、他動詞性が強い。
出来上げる(ダメ) - 出来上がる。<できる>は自動詞だが、自動詞性が強い。

<上げる>は<上の方への動き>を示すのでドイツ語では接頭語<auf->と似たところがある。英語では<up>が相当する(to dry up, to give up、to hung up (the telephone) などいろいろおもしろい )。ただし、上記4例に見るように、終結(終える、終わる)と言うよりは完成(成就)だ。接頭語<aus->は日本語と違って(<出る>)と違って)、開始の意はないが完成(成就)の意はある。話がややこしくなったので、始めへ戻る。繰り返しになるが、

1)上方の運動 - 上に(へ)、上の方に(へ)、の動きを示す。向きを示す。

2)事物の上面への運動 - モノ(コト)の上面に(へ)、の動きを示す。これも向きを示す。

3) 上面における存在 - モノ(コト)の上面にあることを示す。場所を示す。

<auf>は前置詞としては3格と4格をとる。前々回のポスト<日本語の自動詞、他動詞-12、移動動詞-2>でかなりしつこく書いたが、


3格(間接目的格)の場合は動作(動き)が行われている場所を示す、は日本語の助詞<で>が代表。

4格(直接目的格)の場合は動作(動き)の方向を示す、 は日本語の助詞<に>と<へ>が代表。



相良大独和辞典の接頭辞<auf->の解説と呼応するが、順序が逆になっている。また前置詞<auf->の解説では運動だけで存在が抜けている。日本語ではどういうわけか<xx ある>とは言わず、<動作(動き)の方向を示す>は日本語の助詞<に>を使って<xx ある>で存在する場所をあらわす。<xx ある>は<xx だ>とほぼ同じでいわゆる断定の言い方があるのが影響しているようだ、これが話をややこしくしている。<xx >は本来行為が行われる場所を示し、<xx >は本来方向または存在する場所(xx にある)を示す。

<あがる>、<あげる> は単独使用では、<上がる>、<上げる>意外に<挙がる(候補に挙がる)>、<挙げる(例を挙げる(列挙する))>、テンプラは<揚がる>、<揚げる>だ。漢字で書くと違いがあるが、話したり、聞いたりするときは当然ながらすべて<あがる>、<あげる>だ。

また適当な漢字がないようようだが、英語の to give は<与える>と訳されるが、口語では<あげる>がよく使われる。 敬語には<差し上げる>があり。<差し上げる>はもともと<あげる>場合に敬意を表してモノを<(両手で)差し上げて>相手に渡したことが由来だろう。<差し上げる>がなまった動詞に<ささげる(sasa - ageru)>がある。

<上がる>、<上げる> は使用頻度の高い言葉で<上がる>、<上げる>が他の動詞の連用形の後に来る複合動詞が相当ある。また比喩的な使い方も相当ある。<aus->の<出る>、<出す>の複合動詞以上だろう。<出る>、<出す>もそうだが<上がる>、<上げる>も完成(成就)に意味でが汎用性が高い。

xx 上がる

揚げ上がる - 揚げ揚げる (てんぷら)
洗い上げる 
浮かび上がる (慣用あり)
浮き上がる
起(お)き上がる
躍(おど)り上がる
思い上がる
買い上がる(株式投資) - 買い上げる
駆け上がる
勝ち上がる
繰り上がる - 繰り上げる
すり上がる - すりあげる
刷り上る - 刷り上げる (印刷物) 
せり上がる - せり上げる  (慣用あり)
反(そ)りあがる    そり上がって見る
炊(た)き上がる  - 炊き上げる
仕上がる - 仕上げる
立ち上がる (慣用あり) - 立ち上げる  (慣用あり)
縮(ちぢ)み上がる (慣用)
つけ上がる (慣用)
積み上がる - 積み上げる
釣り上がる - 釣り上げる
できあがる
成り上がる
飛び上がる
跳(と)び上がる
成り上がる
縫いあがる - 縫い上げる
塗りあがる - 塗り上げる
煮え上がる
のし上がる
伸び上がる
登(上、昇)りあがる - 登(上、昇)りあげる
はい上がる
跳(は)ね上がる
腫(張、脹、は)れ上がる
晴れ上がる
吹き上がる - 吹き上げる
ふくれ上がる  (慣用あり)
ふるえ上がる  (慣用)
干しあがる  (慣用あり)
舞い上がる
巻き上がる - 巻き上げる (慣用あり)
蒸(む)し上がる
燃え上がる
めし上がる
焼きあがる -焼き上げる
ゆで上がる - ゆで上げる   茹(ゆでる)
湧 / 沸(わ)き上がる


xx 上げる

編み上げる
洗い上げる (慣用あり)
言い上げる
打ち上げる (慣用あり) - 打ち上げ (慣用あり)
うなり(を)上げる
売り上げる - 売上(うりあげ)
追い上げる 
押し上げる
買い上げる
抱え上げる
書き上げる
掻(か)き上げる   髪を掻(か)き上げる  関連語:かかげる
数え上げる
担(かつ)ぎ上げる
刈り上げる
築き上げる
切り上げる (慣用あり)
蹴り上げる
食(く)い上げる - メシの食い上げ
汲(く)み上げる
組み上げる
繰り上げる
こすり上げる
こね上げる  (慣用あり)
込(こ)み上げる (自動詞)  怒りがこみ上げる
差し上げる  関連語:ささげる
仕上げる
しばり上げる
締め上げる
調べ上げる
吸い上げる
すくい上げる (慣用あり) <すくう>は<救う>ではなく<掬う>。金魚すくい。<救う>普通<救い出す>だ。
刷り上げる (印刷物)
攻め上げる 
せり上げる (慣用)
染め上げる
剃り上げる
反り上がる   身を反り上げて見る
炊(た)き上げる
抱き上げる
たくり上げる
たたえ上げる
たたき上げる (慣用あり)
立ち上げる  (慣用あり)
掴(つか)み上げる
突き上げる (慣用あり)
作り上げる
つまみ上げる
積み上げる
つむぎ上げる
釣り上げる
吊り上げる
吊るし上げる  (慣用あり)
出来(でき)上がる
取り上げる (慣用あり)
投げ上げる
なめ上げる
並べ上げる   <並べ立てる>とは少し違う
縫い上げる
塗り上げる
ねじり上げる (慣用)
練り上げる  (慣用あり)
登(上、昇)りあげる
のり上げる
跳(は)ね上げる   水(どろ)を跳ね上げる
張り上げる  (慣用あり)
引き上げる (慣用あり)
ひねり上げる  (慣用)   <ひねり出す>が普通
拾い上げる
ぶち上げる  (慣用)
振り上げる
ほうり上げる
ほめ上げる
巻き上げる (慣用あり)
まくり上げる
見上げる (慣用あり)
磨(みが)き上げる   (慣用)
召し上げる
申し上げる
持ち上げる  (慣用あり)    関連語:もたげる
彫(ほ)り上げる
焼き上げる
やり上げる
ゆで上げる
呼び上げる
読み上げる(声を出して読む)
-----
(随時追加、訂正、削除予定)

以上のうち

1)物理的に上のほうへ(に、で)の意が強いモノ

浮かび上がる
浮き上がる
起き上がる
駆け上がる
反(そ)りあがる
立ち上がる
積み上がる
釣り上がる
飛び上がる
跳び上がる
伸び上がる
吹き上がる
舞い上がる
燃え上がる
沸(わ)き上がる

打ち上げる
押し上げる
掻(か)き上げる
担(かつ)ぎ上げる
蹴り上げる
差し上げる
吸い上げる
すくい上げる
たくり上げる
掴み上げる
突き上げる
つまみ上げる
積み上げる
釣り上げる
吊り上げる
のり上げる
引き上げる
拾い上げる
振り上げる
巻き上げる
まくり上げる
見上げる
持ち上げる

2)終了、完成(成就)の意があるモノ。

揚げ上がる
洗い上がる
仕上がる
刷り上がる
炊き上がる
でき上がる
縫い上がる
塗りあがる
煮え上がる 
蒸し上がる
焼き上がる
ゆで上がる

編み上げる
洗い上げる
描き上げる 
書き上げる
組み上げる
こね上げる 
仕上げる
刷り上げる 
染め上げる
炊き上げる  
作り上げる
つむぎ上げる
塗り上げる
縫い上げる
練り上げる
登(上、昇)り上げる
ひねり上げる
彫り上げる
磨き上げる
焼き上げる
ゆで上げる 

以上は作業、製作、創造(作る)関連の動詞だが、この<あがる>、<あげる>一般性が高く他の<する>、<作る>関連動詞に適応できるだろう。また多くは他動詞-自動詞対応がある。
編み上げる - 編み上がる
洗い上げる  - 洗い上がる 
描き上げる - 描き上がる
書き上げる - 書き上がる 
こね上げる  - こね上がる
仕上げる  - 仕上がる
刷り上げる - 刷り上る
染め上げる - 染め上がる
炊き上げる  - 炊き上がる
作り上げる  - <作り上がる>はダメで、これは<出来(でき)上がる>になる
紡(つむ)ぎ上げる  - 紡ぎ上がる
練り上げる - 練り上がる
ひねり上げる  - <ひねり上がる>はあまり聞かない。
彫り上げる  - 彫り上がる
磨き上げる   - <磨き上がる>はあまり聞かない。
焼き上げる    - 焼きあがる
ゆで上げる - ゆであがる

自動詞の場合創造意図度合いは低い。また<aus->で取り上げた<出す>でも置き換えできるモノが多い。

編み上げる - 編み出す
描き上げる -  描き出す
書き上げる - <書きだす>は1)一部を書き出す、2)書き始める、の意になる。
仕上げる  - <仕出す>は1)<し始める>、の意になるほか、2)<仕出し>の<仕出す>がある。
汲み上げる - 汲みだす
染め上げる - 染め出す
炊き上げる  - <炊き出す>は<吹いて>出て来るの意になる。
作り上げる  - 作り上出す
つむぎ上げる  - つむぎ出す
練り上げる - 練り出す
彫り上げる  - 彫り出す
 
<出す>の方が創造度合いが高く見える(聞こえる)。

<auf->は英語の副詞の<up>がかなりの部分相当する、日本語では<up>に相当するのは<xx 上がる>、<xx 上げる>以外に<xx 立つ>、<xx 立てる>、<xx 起(お)きる>、<xx 起(お)こす>の複合動詞の後半の動詞だ。<起>は<上>、<出>とともにに中国語の趨勢補語(*)の中にある。<立>の字がないが<起>が兼ねているいるようだ。

xx 立つ、xx 立てる

xx 上がる --> xx 立つ

浮き上がる --> 浮き立つ
思い上がる --> 思い立つ
仕上がる  --> 仕立てる (他動詞)
積み上がる --> 積み立てる (他動詞)
成り上がる   --> 成り立つ
煮え上がる   --> 煮え立つ、 煮えくり立つ
飛び上がる --> 飛び立つ
登(上、昇)り上がる --> 登り立つ
舞い上がる  --> 舞い立つ
燃え上がる  --> 燃え立つ
湧 / 沸き上がる--> 湧 / 沸き立つ

xx 上げる --> xx 立てる

言い上げる --> 言い立てる
打ち上げる --> 打ち立てる
うなり(を)上げる --> うなりたてる (自動詞)
追い上げる  --> 追い立てる
押し上げる --> 押し立てる
書き上げる --> 書き立てる
掻(か)き上げる --> 掻き立てる
切り上げる --> 切り立つ (自動詞)、切り立てる(他動詞)
組み上げる --> 組み立てる
仕上げる --> 仕立てる
突き上げる --> 突き立てる
作り上げる --> 作りたて(動詞ではない)
積み上げる  --> 積み立てる)
出来(でき)上がる  --> 出来たて(動詞ではない)
取り上げる  --> 取り立てる
並べ上げる  --> 並べ立てる
登(上、昇)り上げる --> 登り立つ 
引き上げる  --> 引き立つ、引き立てる
まくり上げる  --> まくりたてる
見上げる  --> 見立てる
申し上げる --> 申し立てる    <申し上げたてまつる>なんてのがある。
焼き上げる  --> 焼きたて(動詞ではない)
ゆで上げる  --> ゆでたて(動詞ではない)
呼び上げる  --> 呼び立てる

上記以外の<xx 立つ、xx 立てる> 

xx 立つ

いきり立つ   <いきる>はどの<いきる>か?
降(お)り立つ
そそり立つ
奮(ふる)い立つ   震(ふる)え上がる    <奮(ふる)い立つ>の<奮>は当て字くさい。

xx 立てる

あおり立てる
がなり立てる
騒(さわ)ぎ立てる
そばだてる   耳をそばだてる
泣きたてる
寄り立てる
わめき立てる

xx 起きる、xx 起こす

xx 上がる --> xx 起きる、xx 起こす

思い上がる - 思い起こす (他動詞)
飛、跳(と)び上がる - 飛、跳(と)び起きる
はい上がる - はい起きる
跳(は)ね上がる - 跳ね起きる
巻き上がる - 巻き起こす (他動詞) (慣用)
湧 / 沸(わ)き上がる - わき起きる(自動詞)、わき起こす(他動詞)

xx 上げる --> xx 起こす、xx 起きる

押し上げる --> 押し起こす(押して起こす)
抱え上げる - 抱え起こす
書き上げる - 書き起こす
担(かつ)ぎ上げる - 担ぎ起こす
たたき上げる - たたき起こす
掴(つか)み上げる - 掴み起こす(掴んで起こす)
突き上げる - 突き起こす(突いて起こす)
跳(は)ね上げる - 跳ね起きる(自動詞)
引き上げる - 引き起こす (慣用あり)
巻き上げる - 巻き起こす (慣用あり)

上記以外の<xx 起きる、xx 起こす>

xx 起きる


xx 起こす

説き起こす
奮(ふる)い起こす    奮い立つ、  震え上がる
掘り起こす
ゆすり起こす

<上がる>、<上げる>と<立つ>、<立てる>、<起きる>、<起こす>の違いはおもしろそうだが、別途検討する。

以上は、長くなったが

1)上方の運動 - 上に(へ)、上の方に(へ)、の動きを示す。向きを示す。

関連で、<auf->の主要用法だ。 次に

2)事物の上面への運動 - モノ(コト)の上面に(へ)、の動きを示す。これも向きを示す。

はどうか。この場合<向きを示す>の<向き>は実際<auf->とは逆の<下向き>だ。上記の説明をもっと正確に言えば、

2)事物の上面への運動 - モノ(コト)の下向きで上面に(へ)、の動きを示す。

となる。難しいことはない。動詞の意味内容によるのだ。

置く - テーブルの上にコップを置く。
注(そそ)ぐ - コップに水を注ぐ。
覆(おお)、掛(かけ)る、(カバーする) - コップに布巾(ふきん)をかける。xx にコショウを(ふり)かける。
踏む - 空き缶を(足で)踏む。 芝生を(足で)踏む。<踏む>のは<足で>が多い。

以上は下向きの動きがある動詞だ。

日本語では<上に>で

置く - setzen、stellen
注(そそ)ぐ - gießen
かける(カバーする) - decken
踏む - treten

xx の上(面)に(へ)+置く、そそぐ、覆う、踏む

ですむ。ドイツ語も auf(前置詞)+xx(4格(直接目的格)の場合は動作(動き)の方向を示す)+  setzen、stellen, gießen, decken, treten で済みそうだ。したがって、<auf xx(4格)aufsetzen>といった言い方も多い。

 次に


3) 上面における存在 - モノ(コト)の上面にあることを示す。場所を示す。

を調べてみる。これはなかなか見つからない。ないといってもいいくらいだ。強いてさがせば、

 aufsitzen 


ぐらいだ。 だがこれも<xx の上にあると>いうよりは<xx の上で起きている(im Bette aufsitzen)>といった意味だ。 また後で述べる open 関連の<ひらく、あける、あく>に出てくる

aufhalten
aufbleiben
aufstehen

の3語が該当しそうだが open がらみの意味があり、 aufsitzen と同じように、<xx の上にあると>いうよりは<xx の上で起きている、立っている>といった意味だ。普通は<auf xx sein> <auf xx bleiben>と言うだろう。


以上が相良大独和辞典の<auf->の解説の概要の

”上方または事物の上面への運動、上面における存在” 関連だ。 大半は<上方への運動>で、次いで<事物の上面への運動(方向は下方だ)>、<事物の上面における存在>は見当たらない。

 さて、辞書をよく調べてみると<auf->は独英辞典の英語では<up>、次いで多いのは意外だが<open>。独和辞典の日本語では<あく>、<ひらく>がよく出てる。日本語では<こじあける>、<押しあける、ひらく>、<切りひらく>ぐらいだが、ドイツ語ではこの言い方(<xx ひらく、あける、あく>に相当)がけっこうある。


押しあける、ひらく (押して:あける、ひらく、押されて:あく、ひらく) (ドア) - aufdrängen, aufshieben, aufstoßen
押し(圧し) あける、ひらく (圧して:あける、ひらく、圧されて:あく、ひらく) (くるみ、おでき)- aufdrücken
打ちあける、ひらく (打って:あける、ひらく、打たれて:あく、ひらく) - aufschlagen
落としあける、ひらく (落として:あける、ひらく、落ちて:あく、ひらく、クルミ) auffalllen(xxの上に落ちる、が主要な意味)
傷(きず)つけて:あける、ひらく、傷ついて:あく、ひらく) aufschürfen
切りあける、ひらく (切って:あける、ひらく - 切れて(られて):あく、ひらく)- aufschneiden,
aufspalten
ち切りあける、ひらく (ち切って:あける、ひらく - ち切れて(られて):あく、ひらく)- aufreißen
砕(くだ)きあける、ひらく (砕いて:あける、ひらく - 砕けて(かれて):あく、ひらく)
削(けず)りあける、ひらく (削って:あける、ひらく - 削れて(られて):あく、ひらく)
蹴(け)りあける、ひらく  (蹴って:あける、ひらく - 蹴れて(られて):あく、ひらく)- auftreten  
こすりあける、ひらく  (こすって:あける、ひらく - こすれて(られて):あく、ひらく)- aufreiben
壊(こわ)しあける、ひらく (壊して:あける、ひらく - 壊れて(されて):あく、ひらく)- aufbrechen
刺しあける、ひらく (刺して:あける、ひらく -刺されて:あく、ひらく)(おでき)-aufstechen
(すりむいて:あく、ひらく)- aufschürfen
たたきあける、ひらく (たたいて:あける、ひらく、たたかれて:あく、ひらく)-aufschlagen
つぶしつあける、ひらく (つぶして:あける、ひらく - つぶれて(されて):あく、ひらく)
ねじりあける、ひらく (ねっじて:あける、ひらく) - aufdrehen
はじきあける、ひらく (はじけて:あける、ひらく - はじけて(かれて):あく、ひらく) (爆弾、栗) aufplaben, aufsrengen(爆破して)
跳(は)ね開ける  (跳ねてて:あける、ひらく) - aufspringen
引きあける、ひらく (引いて:あける、ひらく - 引かれて:あく、ひらく) - aufziehen
ひねるあける、ひらく (ひねって:あける、ひらく - ひねられて:あく、ひらく) - aufdrechen
吹きあける、ひらく ( 吹いて:あける、ひらく - 吹かれて:あく、ひらく) -
踏みあける、ひらく  ( 踏んで:あける、ひらく - 踏まれて:あく、ひらく)(くるみ) - auftreten 
ほころびあく、ひらく (ほころんで:あく、ひらく)  (衣服、花)
回(まわ)しあける、ひらく (回して:あける、ひらく - 回って(されて):あく、ひらく) (ビンの栓) - aufdrehen
破(やぶ)りあける、ひらく  (破って:あける、ひらく - 破れて:あく、ひらく)-aufreißen, aufsprengen, aufbrechen
剥(む)きあける、ひらく (むいて:あける、ひらく - むかれて:あく、ひらく)
割りあける、開く (割って:あける、ひらく - 割れて(割られて):あく、ひらく)- aufsrengen

以上の多くは<行為へ刺激、復旧、終結、開始、開放、更新など>のうちが<など>を除きぴったり相当するものが見当たらない。共通した意味を探せば<破壊による内部の露出、呈示>に相当するものが多い。

その他

魔法でひらく - aufzaubern
(傘を)開(ひら)く  - aufspannen
(旗を)広げる - aufverfen

ひらかれている、ひらいている、あいている、あけておく、といった状態を示すのでは

aufhalten
aufbleiben
aufstehen

閉じたモノをひらく、あける、あく、では

aufgehen (戸があく)
aufschließen (錠をあける)
auftun (戸、窓、口をあける、があく)

<auf->が付かない<ひらく、あける、あく>動詞。

offen
öffnen

またこれに関連して<解(と)く>、<ほどく>、<ほぐす>の意味のものがある。<とじている>、<しまっている>状態を(から)<解く>、<ほどく>、<ほぐす>で、<あける>、<あく>、<ひらく>に相当し、<auf->が用いられている。

auflockern  - ゆるめる
auflösen  - 解く、ほどく

これは<行為へ刺激、復旧、終結、開始、開放、更新など>のうち<開放>が相当するものが多い。

また<あく>、<ひらく>だけを見ていてはわかりにくく、<あく>、<ひらく>前の状態、すなわち<とじている>、<しまっている>状態から<あいた>、<ひらいた>状態への変化と見る必要がある。 この場合は<復旧>だ。だが上記例からは<復旧>の意の例が見当たらない。<復旧>が<刺激>の後の二番目にきていることからして、これはどうしたことか?

中国語の<開(ひら)く>は<始める>の意で多く使われる。

开始- 開始(する)
开会 - 会議を開く、または会議に出席中 
开车 - 車を出す、車を運転する  (広東語も同じ、発音は違う)
开幕 - 開幕
开场 - 開演(する) 开灯 - 電灯のスイッチを入れる(着ける)、明かりを着ける。
开关 - スイッチを入れる。

広東語では

開機 - コンピュータ、携帯電話などの機器のスイッチを入れる(着ける)、をよく聞く。北京語では开关か。

おもしろいのはスイッチに関しては英語では、あるいは現物のスイッチの構造からは open が off  (オープン)で close、closed  が on  だ。もっとも普通は switch (turn) on、switch (turn) off が使われる。

相良大独和辞典の解説では<行為への刺激、復旧、終結、開始、更新など>になっているが、中国語では<開く>が用例の多さから見ても<開始>を意味するでいいが<auf->の場合<開始(to start, to begin)>の用例は以外と少なく<up>と<open> の用例の方が明らかに多い。<開始(to start, to begin)>訳が出てくるのは基本語が多い。基本語は多義語が多く、いくつか違った意味のうち<開始(to start, to begin)>が必ずしも第一番めの意味というわけでもない。

aufmachen - 1) to open, 2) to undo, 3) sich aufmachen = to start out

<to undo>はコンピュータの用法では、key の打ち込みを間違えたときに打ち込みまえの<(打ち直すために)元の状態にもどす>ことで、コンピュータ以外でも<元の状態にもどす>とか<復元する>の意の動詞だ。また1) to open も上で述べたように、<とじている>、<しまっている>状態から<あいた>、<ひらいた>状態への変化で、<とじている>、<しまっている>前が<あいた>、<ひらいた>状態であれば<元の状態にもどす>ことになる。したがって、3) sich aufmachen = to start out も単なる開始ではなく<再び始める(再開する)>の意だろう。

aufnehmen - 多義語で aufnehmen = to take up (= to begin) というにが何番目かにある。

<to take up>も多義語で普通は<to occupy some space>の意だが、英語辞書によると、<xx (時)以後しばらくして再び始めるの意の<始める>で、しかも以前とは少し内容違うこと<始める>といったかなり複雑(特殊)な条件での<始める>だ。

したがって<純>開始の意の<auf->の例は少なく(多分ない)、大体は<再び始める(再開する)>の意だ。再開は<純>開始とも復旧とも違う。

<開く>、<あける> (気がつきにくいが、日常会話(口語)では<あける>、<あく>の方が<開(ひらく)く>(他動詞、自動詞) より頻繁に使うようだ。英語の代表は to open (動詞)だ。ドイツ語には to open に相当する offen (他動詞(ひらく、あける)、自動詞形は sich offen の再帰形)があるが、上記の aufmachen(第一義 to open)(他動詞、助動詞は再帰形の sich machen)以外に

aufbringen
aufgehen  自動詞
aufsclagen (book, paper)
aufscliesen  閉じたものひらく、あける、 錠(かぎ)をあける
auftun (mounth, shop, firm) 他動詞、助動詞は再帰形の sich auftun


日本語の<あく>、<あける>は<ひらく>に比べると多義語で、

1)閉じているものを<ひらく>
2)閉じているものが<あく>

以外に

3)部屋があく、座席があいている

の用法がある。漢字で書くと<部屋が空く>、<座席が空いている> となる。これは、おそらく、<閉じているモノを開(あ)けると、中にあるモノが出て行き、中が空(から)になる>ことに関連があるだろう。

部屋にいた人が出て行けば、部屋はあく(空く)。
座っていた人が立って離れていけば座席はあく(空く)。

<行為へ刺激>は、日本語では

あおる(煽る)、 あおり立てる
いきり立つ (自動詞) <いきり立てる>と言う他動詞はない。
掻(か)き立てる
かり立てる
引き立てる
奮(ふる)い立たす

奮(ふる)い起こす

で<xx 立てる>が多い。<xx あげる>がありそうだが、上記のかなり多くの例の中にみあたらない。

aufputschen
aufregen


さて<auf->には、やや見つけずらいが、<行為への刺激、復旧、終結、開始、開放、更新>の中にない重要な意味を示す働きがある。それは(1)<阻止>、<中止する>、<止める>の意だ。阻止>、<中止する>、<止める>は終結とは違う。あるいは少し複雑になるが(2)一旦<阻止>して、<中止して>、<止め>て<また始める、始まる>の意だ。後者(2)は<復旧>と言えそう。<行為への刺激>と<阻止>、<止める>は相反する。

aufgeben
aufhalten
aufheben
aufhören

halten、hören は<止める>の意があるが heben はこの語自体<持ち上げる>の意があり、やや特殊だ。哲学用語に<止揚>(止めて揚げる)と言うのがある。aufgeben は<与える>、<(郵便で)送る>など以外にに英語の to give up の意がある。aufgeben と to give up は文字通りでは<与え上げる>だが<与え上げる>がなぜ<あきらめる>になるかは大きな疑問でいろいろ説があるようだ。日本語では<お手上げ>が<あきらめる>のサインだ。aufgeben と to give up と<あきらめる>についてはは別途検討予定。


参考

(*)中国語の趨勢補語

中国語文法の単純型方向補語

来 -くる  to come 補語というよりは主動詞
去 -いく     to go  補語というよりは主動詞
 -上がる、のぼる。   英語では動詞ではなく方向を示す副詞<up, upward>が使われる。
 -下がる、くだる、降りる 英語では副詞<down, downward>が使われる。
 -入る。   英語では副詞<in, inward>が使われる。
 -出る。   英語では副詞<out, outward>が使われる。
 -戻る、返る、帰る。   英語では副詞back, backward>が使われる。
 -過ぎる、越す、渡る。   英語では副詞across, over>が使われる。 过马路 - 道を渡る。
 -起きる。   英語では副詞up, upward>が使われる。
开 -離れる・広がる。   英語では副詞apart、away>が使われる。

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